第19回:頭痛と肩こりに悩む息子の妻

 私の外来に3年前から受診している85歳男性の中村さん(仮名)から相談されました。中村さんは3年前に脳梗塞になりましたが、左上下肢の麻痺はほとんど改善して、とても元気に毎日を過ごしています。
 中村さんの趣味は卓球です。卓球を始めたきっかけは、同居している長男の妻であるまち子さん(仮名)に誘われ、70歳の時から始めました。脳梗塞になった後しばらく卓球はしなかったのですが、1年前から再びまち子さんにさそわれて始めるようになりました。1週間に2回ほど近所の卓球場で楽しんでいたのですが、3ヶ月前からまち子さんの具合が悪く、卓球を一緒にできなくなってしまいました。

中村さんの相談

 相談は、まち子さんのことでした。まち子さんは60歳です。3ヶ月前から、肩こりや頭痛があり、最初は卓球をやりすぎたためと思っていたそうです。卓球をすることをしばらくやめたのですが、症状はよくなりませんでした。まち子さんは薬局で湿布や鎮痛薬を買って試したそうです。症状は一時的には良くなるのですが、消えることはなかったそうです。2週間前から近所で、マッサージや整体治療を受けるようになりました。ところが症状は良くなるどころかますますひどくなり、右手にびりびりしたしびれを感じるようになり、力も入らなくなってきました。中村さんはとても心配になり、どうしたらよいかと相談したわけです。

まち子さんを診察

 中村さんに、まち子さんが良ければ、私の外来に受診するように伝えてもらいました。その5日後に受診をしてくれました。肩から頸にかけてこった感じが毎日あり、後頭部の重い感じが続いており、すっきりしないということでした。頸のマッサージと頭を曲げたりひっぱたりするヨガのようなことをしてから、右手がびりびりとしびれ、何となく力が以前より入らないと訴えました。

 神経学的診察では、右手の握力が少し低下しており、右側で上腕二頭筋の反射(肘の内側の腱をハンマーで叩くと肘が屈曲する反射)が消失し(叩いても肘が屈曲しない)、上腕三頭筋の反射(肘の外側をハンマーで叩くと肘が伸展する反射)が亢進(極軽く叩いただけで強く伸展する)していました。はっきりとした感覚の障害はありませんでしたが、頭を動かすと時々右手にしびれを感じました。

 上腕二頭筋の反射が消失し、上腕三頭筋の反射が亢進していたことは、5番目と6番目の高さの頸髄に病気があることを示します。

 頸椎の病気を考え、頸椎のMRI検査を行いました。

頸椎MRI

 5番目と6番目の間、6番目と7番目の間の椎間板が変性して後方に突出し、5番目から7番目の頸椎レベルで、脊髄の周りにあるべき脳脊髄液のスペースが、前方からの圧迫でなくなっているのがわかりました(図)。横断面では、脊髄は右側から強く圧排されて平たくなっていました(図)。
         

図1:まち子さんの頸椎MRI

矢状断の画像では、5番目と6番目の間、6番目と7番目の間の椎間板が変性して後方に突出し(椎間板ヘルニア)、5番目から7番目の頸椎レベルで、脊髄(灰色に見える)の周囲の空間(隋液があるので正常では白く写る)が、消失しています。


     

図2:第5頸椎と第6頸椎の間の高さで切った横断面

これらの所見から、変形性頸椎症と診断しました。
まち子さんの肩こり、頭痛、右手ののしびれ感と握力の低下は、5番目から7番目の頸椎レベルで頸髄や脊髄神経が圧迫されていることに関係があると考えました。

変形性頸椎症について

この病気は、お年寄りの方に多い病気ですが、若い人にもみられる病気です。原因はいろいろですが、椎間板の水分が加齢により少なくなり、変性してヘルニアを起こしやすくなることがあります。頸の靱帯の変性、骨のカルシウムの低下、長年の頸への負担、若いときの頸部への外傷(むち打ち症など)等も関係があります。

症状は、軽いときは頭痛、肩こり、頸部痛程度ですが、神経や頸髄が圧迫されると、感覚障害、上肢の筋力低下や筋の萎縮、両下肢がつっぱたようになりうまく歩けなくなることもみられます。

治療は、軽度の時は特別に何もしなくても自然に症状は消失することが多いですが、神経や頸髄が圧迫された症状のあるときは、牽引や手術が必要になることもあります。

まち子さんの場合

整形外科に紹介をしました。牽引により、しびれ感はなくなり、握力の低下も改善しました。今のところ手術は行わず、様子を見ることになったそうです。

まち子さんの症状は、頸のマッサージを受け、ヨガのようなことをしてからひどくなっています。本来なら頸部を安静にしておかなくてはいけないのに、無理に頭を動かしたり、頸部をマッサージしたことがいけなかったわけです。肩こりや頸部の痛みがあるからといってマッサージをすることは、悪い場合もあることを覚えておいて下さい。どんな病気でも、症状が起き始めたときは安静が大切です。

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