第26回:認知症の父と同居している息子の悩み

今回は、認知症の父と同居している宗像さんからの質問に答えたいと思います。

次々と高額な物を買ってしまう父

 宗像さん(仮名)の父は、宗像一郎さん(仮名)といって80歳です。銀行の会長を務め、退職後も77歳まで銀行の相談役として仕事をしていました。その後は、自宅でのんびりと過ごしていましたが、以前からの付き合いのある人たちとの会合には出かけていました。しかし、その会合の約束を忘れたり、日にちを間違って出かけてしまったことが度々あり、1年前に軽度のアルツハイマー病と診断されています。

 認知症は軽度なので、日常的な会話をしていると正常な人と違いがありませんが、今日は何年であるかとか、日にちはあやふやです。そして、約束したことを忘れたり、物をしまったところを忘れることがとても多くなっています。宗像さんの父は、息子夫婦と同居していますが、昼間は一人で過ごしています。

 6ヶ月前に一郎さんは、自宅にセールスに来た人から磁力を発するという健康器具を購入しました。金額は128000円ですが、サービス期間と言うことで、98000円だったそうです。息子さんは、おかしなものを買ったと思いましたが、父がほしくて買ったのだから仕方がないと思っていました。

 その3週間後に、一人で銀座に出かけたときに買ったという絵が送られてきました。話を聞いてみると、路で声をかけられて入った画廊で勧められて買ったということでした。クレジットカードで735000円で買っていたことがわかりました。一郎さんは、以前から絵が好きで、絵を購入することもありましたが、今までは進められるままに買ってしまうことはなかったそうです。

必要のないものをこれからも買ってしまうのではないかと不安

 息子さんは、父がこれからも次々と勧められるままに高価なものや、必要ないものを買ってしまうのではないかと心配になりました。認知症の人に必要のないリフォームの契約をさせたり、だまして先物買いをさせたりする事件のことが頭に浮かんだそうです。これから先どの様にしていったらよいのかを相談にきました。

成年後見制度について説明をしました

 息子さんには、認知症により、財産の管理や処分を自分自身ではできない人が対象となる成年後見制度(表)の話をしました。この制度を利用することで、後見人が被後見人の心身の状態と生活の状況に配慮して、被後見人の意思を尊重して、財産の管理をしてくれることになります。

 成年後見制度は、公的後見制度と任意後見制度の二つに大きく分けることができます。

 公的後見制度は、後見類型、保佐類型、補助類型の3つの型からなります。認知症により、自分の財産の管理や処分することができない人は、後見類型の対象になります。自分の財産の管理や処分をするときに、常に援助が必要な人は補佐類型の対象になります。認知症の程度が軽度で、自分の財産の管理や処分をするときに、援助が必要な場合がある人は補助類型の対象になります。それぞれ援助する人を、後見人、補佐人、補助人といい、家庭裁判所が選任をします。

 任意後見制度は、将来自分が認知症になり、自分の財産の管理ができなくなったときに、財産の管理をしてもらう信頼できる人(法的代理権を委ねられた人)をあらかじめ決めておくものです。自分意志能力が保たれているときに、将来の財産の運用や介護方針などを自分自身で指示をして決めておくことができることになります。

 宗像さんの場合は、認知症が軽度なので、自分の財産の管理や処分をするときに、援助が必要な場合があるという段階と思われました。したがって、補助類型になると考えました。息子さんは、父の意志を確認して、家庭裁判所に相談に行ってみますと言って帰っていきました。

表:成年後見制度
公的後見制度 
  ・後見類型 高度の認知症のため自分の財産の管理処分ができない。
  ・補佐類型 中度の認知症のために自分の財産の管理処分に
常に援助が必要。
  ・補助類型 軽度の認知症のため自分の財産の管理処分に援助が必要な場合がある。
任意後見制度 意志能力は保たれており、自分で特定の任意後見
人と契約をして将来の生活、介護、財産の管理などについて自分自身の意志で決めておく。

 宗像さんの場合は、認知症が軽度なので、自分の財産の管理や処分をするときに、援助が必要な場合があるという段階と思われました。したがって、補助類型になると考えました。息子さんは、父の意志を確認して、家庭裁判所に相談に行ってみますと言って帰っていきました。

認知症の早期発見の意義の一つ

 早く認知症ということがわかれば、その段階ではおそらく意志能力が保たれていると思います。任意後見制度で、自分で特定の任意後見人と契約をして、将来の生活、介護、財産の管理などについて自分自身の意志で決めておくことができることになります。これは、認知症を早く見つけることの意義の一つと考えています。

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