第33回:猫の幻覚が出てきた72歳女性のパーキンソン病患者さん

 72歳女性の藤堂さん(仮名)は、娘さん夫婦と同居をしています。1年前より、両手のふるえがあり、歩行が下手になり、自宅の近くの病院でパーキンソン病と診断されていました。抗パーキンソン病薬を服用してから、ふるえは少なくなり、歩行も以前よりはうまく歩けるようになったのですが、症状の大きな改善はありませんでした。藤堂さんに言わせると、20%位の改善と言うことでした。

 1ヶ月ほど前より、家の中に猫がえさをもらいにきているから出してくれと娘さんに言ったり、ハンガーに掛けてある服を見て人がいると言うことが、しばしばあるようになりました。
娘さんは、藤堂さんが認知症になったのではないかと心配をして、受診してきました。

診察では

 両手に安静時の振戦(手を膝の上に置いて静かにしていると手が震える)がありました。両側の上下肢には軽度の筋固縮があり、歩行は遅く小歩で、体を少し右側に傾けていました。第11回の診察室で話したようなパーキンソン病と同じ症状がみられました。

 認知機能を検査すると、年月日はわかっており、記憶障害も明らかなものはないことがわかりました。幻覚については、家の中に猫がえさをもらいに入って来るということを話してくれました。人がいると言うことについては、よく見ると服の時もあるけれど実際に人が立っていることもあると言っていました。

 投与されているパーキンソン病の薬により幻覚もでることがありますが、藤堂さんには、2種類のパーキンソン病の薬が処方されていました。

 しかし、薬の作用によることも考えて、パーキンソン病の薬を減量してみました。でも幻覚には変化がなく、目立ったパーキンソン病の症状の悪化もありませんでした。

娘さんによると

 脳血流SPECT検査は、初診から1ヶ月後に行われました。それまでの様子は、パーキンソン病の症状には大きな変化はなく、日によって、幻覚がないときもあり、頭の働きもしっかりしていることもあるけれど、相変わらず猫がえさをもらいに来るということは続いているということでした。そして、1日の中でも、頭の働きがしっかりしているときと、注意が散漫で、ぼんやりしており、話もわかってくれないことがあると言っていました。藤堂さんの症状は、動揺することがあると思いました。

SPECT検査の結果

両側の頭頂葉に加えて後頭葉で血流が低下している所見が得られました(図)。


図: 藤堂さんの脳血流低下を示すZスコアマップ
右のカラーバーの上方(赤)の色ほど血流が低下しています。
両側の頭頂葉と後頭葉で血流は低下しています。

診断は

藤堂さんは、パーキンソン病にしては、薬の効果は顕著ではありません。幻覚は、薬によるものでもないようでした。以上のことから、レビー小体型認知症ではないかと考えました。

レビー小体型認知症とは

 神経が変性することで認知症になる病気の中では、アルツハイマー型認知症の次に多い病気です。アルツハイマー型認知症と同じような認知症の症状とパーキン病と同様の症状が認められ,ゆっくりと進行します。脳には、広範に多数のレビー小体が出現しています。注意や意識レベルが変動するので、藤堂さんのように症状が動揺することが特徴です。幻覚、特に幻視のみられることが特徴です。藤堂さんの猫のように具体的に話します。しかも患者さんはそれを記憶しています。パーキンソン病の症状や注意障害のために転倒しやすく、体が左右のどちらかに傾いていることも特徴です。脳血流SPECT検査では、後頭葉の血流低下が認められることが特徴です。

治療は、

 パーキンソン病の症状には、パーキンソン病の治療薬が投与されます。効果はありますが、パーキンソン病の人ほどはないことが多いです。認知症状については、アルツハイマー病の治療薬の塩酸ドネペジルが有効なことが報告されています。藤堂さんにも塩酸ドネペジルが投与され、現在経過を見ているところです。

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