第37回:段々と 四肢の筋力が衰えてきた65歳女性

 歳をとると若いときと比べて、力がなくなったと感じる人は多いと思います。65歳の望月さん(仮名)も、以前と比べて手足に力が入らず、重いものが持てなくなったと感じていました。望月さんは、ご主人と息子さんと一緒に昔から八百屋さんをしています。ご主人が朝仕入れてきた野菜をトラックから降ろして、店に運び込みます。前なら簡単に一人で運べた野菜の入った箱を、持ちあげられなくなってきました。

もう若くはないのだから

 息子さんにそのことを相談したところ、歳を取った証拠だよと言われたそうです。自分でも突然そうなったわけではなく、1年ぐらい前から段々と力が入らなくなってきたので、やはり歳のせいと思うことにしました。

 しかし、最近はイスから立ち上がるときにもテーブルに手をつくようになり、何となくからだがだるく感じ、体重も減り、病気かもしれないと心配をして,受診をしました。

診察をしてみると

 麻痺はありませんでしたが、上下肢の力が弱いことが判りました。上下肢の先の方よりも、体幹に近い肩や大腿の筋力が低下をしていました。従って、上肢を上に長く上げていることができなく、イスから立ち上がるときに手を机につかないと立ち上がることができませんでした。
 肩や大腿の筋肉を握ると痛みがあることも判りました。

採血をしてみました

 血液検査をしてみました。筋肉の病気の時に上昇するクレアチンキナーゼ(CK)が非常に高いことが見つかりました。CKは、筋肉に含まれており、病気により筋肉が破壊されると血中に出てきます。例えば心筋梗塞の時は、心筋が障害を受けるので血中のCKは増加します。

診断は

 徐々に力が入らなくなってきて、筋肉を握ると痛みがあり、CKが高いなどのことから多発筋炎という病気を疑いました。

 そこで、筋電図検査と筋生検(筋肉を少し取ってきて、病理学的に調べる検査)を行い、多発筋炎という診断が確定しました。

 治療のためにステロイドの投与が開始されました。1ヶ月後には、望月さんは、徐々に上下肢の力が回復してきたことを感じるようになりました。しかし、主治医からは、治療はまだ長くかかると言われており、いまも通院をしています。

多発筋炎はどのような病気でしょうか?

 筋肉の炎症は、ウイルスや細菌などの感染により生じるものと原因が不明で自己免疫疾患によるものがあります。多発筋炎というときには、自己免疫が関係している場合です。皮膚病変があると皮膚筋炎と診断されます。多発筋炎は、60歳以下の人で多いですが、高齢者にも起きることがあります。

 望月さんの場合は、自己免疫疾患によるものと考えられます。自己免疫疾患では、血清中に筋炎と関係のある自己抗体が見つかります。症状は、四肢の脱力で、体幹に近い筋肉が侵されることが多いです。筋肉をつかまれると痛みを感じたり、症状が長く続いている人では、筋肉の萎縮があることもあります。重症の時には、呼吸や嚥下が障害されることもあります。治療には、ステロイドが投与されます。


この内容の無断引用・転載を禁じます。

←前のお話しへ

次のお話しへ→