第16回:頭痛

 頭痛は、神経内科を受診する患者さんの自覚症状の中で、多いことの1つです。頭痛には、くも膜下出血や脳出血の発症時に急激に生じるものと、慢性にある緊張型頭痛、片頭痛、群発頭痛などがあります。それぞれの頭痛の特徴を表に示しました。

表:頭痛のタイプと特徴

偏 頭 痛 緊張頭痛 群発頭痛
黒く光ったものが見えるなど
の徴候があることもある
徴候はない 特に夜間や明け方に連日生じる拍動性の激しい頭痛
ズキンズキンとする拍動性の
痛み吐き気を伴うこともある
痛みつけられるような痛み 発作は数年に1回のこともある
年に1~2回のこともある
階段を上がったり、身体を動かすことで痛みは悪化する
持続は4~72時間 持続は4時間以上 持続は1~2時間

高齢者の頭痛

 高齢になってから、緊張型頭痛、片頭痛、群発頭痛などを発症することは少ないと思います。以前からこのような頭痛がある人でも、歳をとるにしたがい頻度が少なくなってきます。高齢になってから始まった頭痛の時は、脳卒中、脳腫瘍、そして硬膜下血腫などの病気が脳にある可能性や、側頭動脈炎のように高齢者に多い病気、そしてうつ病の可能性などを考えます。

頭痛がだんだんひどくなってきた阿部さん

 阿部さんは、70歳の男性です。1ヶ月前より頭痛を時々感じるようになり、薬局で買った薬を飲むと頭痛はなくなっていましたが、1週間ぐらい前からは薬を飲んでも頭痛が消えず、ほとんど一日中頭痛があるようになり、病院に来ました。

 診察では、四肢の麻痺や感覚障害はありませんでしたが、質問されたことについての反応が遅く、時々意味を取り違えているような返答がありました。

 軽度の意識レベルの低下が疑われ、頭痛が徐々にひどくなってきているということから、脳に病気があることが疑われました。そこで、CTとMRIを行ってみました。その結果脳腫瘍のあることがわかりました(図)。阿部さんの頭痛は、脳腫瘍によるものと診断しました。

 このように頭痛が徐々に強くなってきたり、頻度が多くなるときは、脳腫瘍が疑われます。
CT
MRI

図:
花岡さんのCTと
MRI T2強調画像

ほとんど毎日頭痛のあった花岡さん

 現在72歳の花岡さんは、約1年前に私の外来に頭痛を訴えて来ました。花岡さんの頭痛は、30歳頃から始まっています。後頭部から締めつけられるような痛みです。頭痛は1ヶ月の内15日ぐらいはあったそうですが、60歳で会社を退職するまで頭痛のために休むことはなく、仕事はきちんと行っていました。診療所や病院にも何回か行き、診察や検査を受けましたが、脳には異常がなく、ストレスによるものと言われることが多かったそうです。そして、薬局で買った鎮痛薬を服用すると頭痛は消えたり軽くなったので、40歳頃からはほとんど毎日鎮痛薬を服用するようになったと言うことでした。

 退職した後は、好きなことをして過ごせるのでストレスがなくなり、頭痛もなくなると思っていましたが、そんなことはなく、ほとんど毎日のように生じるので、鎮痛薬も毎日1回は服用するようになり、多いときは1日に3回も服用することがありました。

 71歳の時に、息子さんに毎日頭痛があるのは脳にかくれた病気があるに違いないと言われ、心配になって受診してきたわけです。

診断は

 診察をしてみましたが、異常はありませんでした。頭のMRIを行ってみましたが、年齢相応の萎縮があるだけで、無症候性脳梗塞も脳腫瘍もありませんでした。

 したがって、頭痛の特徴から慢性の緊張型頭痛と診断しました。毎日頭痛が生じるのは、鎮痛薬を過剰に服用していることによると考えました。

 花岡さんにどうして毎日薬が必要なのかをきいてみました。花岡さんは、薬を服用しないと頭痛が起こりそうで不安であり、少しでも頭痛がありそうな気がすると服用せずにはいられらくなると答えました。

治療は

 そこで、花岡さんの頭痛は緊張型頭痛が慢性的に生じているもので、脳には心配するような病気のないことを説明しました。そして、毎日頭痛のあるのは鎮痛薬の服用のし過ぎによると話しました。治療は、とにかく鎮痛薬を服用することをやめなくてはいけないと伝えました。

結果は

 最初は花岡さんは不満そうでしたが、我慢をして服用をやめてみたところ頭痛の回数が減ってきたことを感じました。その後は簡単でした。3週間ぐらいでそれまで毎日あった頭痛はほとんどなくなりました。今では月に2回程度頭痛を感じることがあるそうですが、薬を服用しないでいてもそのうち消えてくれるので、薬局で薬を買うこともなくなったととても喜んでくれました。

慢性的にある頭痛の時

 薬局で買うことのできる鎮痛薬、医院や病院で処方してもらう鎮痛薬、片頭痛の治療薬などの服用のし過ぎが、頭痛を慢性的に起こしていることがあります。1ヶ月に15日以上頭痛があり、これが6ヶ月以上続いているような時は、鎮痛薬の服用しすぎに関係しているかもしれないと疑ってみることも必要です。
*当診察室にご来院の患者さんの姓名は全て仮名です。

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